コラム

シリーズ「POSデータでみる地域性」 第7回 アルコール飲料(京浜・東北・九州)

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シリーズ「POSデータで見る地域性」第7回では、NPI Reportの市場POSデータと公的統計データの2つから、地域特性を読み解いていきます。以下の表1は、2016年5月1日~5月31日における酒類の売上金額を京浜、東北、九州の3つの地域に分けてランキングにしたものです。

表1 地域別酒類の売上高ランキング

料理の味に勝るとも劣らず、地域差が現れるのがお酒の好みです。慣れ親しんだ土地の水で作られたお酒ほど体になじむものはないとも聞きます。特に東北はコメどころとして日本酒の、九州は芋焼酎・麦焼酎の本場というイメージがあります。今回は、多くの地域からの人々が集まる京浜地方(東京・神奈川)をベンチマークとして、東北・九州の酒類の売上から地域性を見ていきます。

3つの地域に共通する特徴は、ビール、リキュール類、発泡酒といった定番となっている酒類の売上の大きさが挙げられます。この3種のカテゴリーは、やはりどの地域でも高い売上を誇っています。こうした定番の酒類から目を外してみると、酒類の売上高ランキングには、世間が抱くイメージ通りのお酒の好みが現れていることがわかります。

まず目を引くのは、九州地方です。他の地域には見られない特徴として、売上高第一位に焼酎(乙類)が輝いています。単式蒸留器によって製造される所謂「本格焼酎」である焼酎(乙類)は、ベンチマークである京浜地域の売上上位5位には含まれていません。「九州といえば焼酎」という世間のイメージにぴったりと合った結果が現れています。

残念ながら、売上首位の座をビールに譲ってしまっていますが、東北地域の清酒の売上順位も京浜のそれと比べて非常に高いことが見て取れます。ここでも「東北といえば日本酒」という世間のイメージ通りの結果が現れています。

では、ベンチマークとしてきた京浜地域の人々の好みのお酒とは、何になるのでしょうか。九州・東北と同じく、定番の3カテゴリーを除いてみると「果実酒」ということになります。「京浜といえば果実酒」というフレーズには耳慣れないものがあるように感じるのは、私だけでしょうか。

そこで、POS以外のデータと組み合わせて、京浜地域のお酒の好みを探っていきます。全国の家計における消費状況を調査している、『家計調査』 (2016年5月、2人以上世帯)*による、酒類への消費金額をランキングとしたものが表2です。

表2 食品消費に占める酒類の消費支出割合ランキング

これを見ると、定番のビール・発泡酒・リキュール類を除けば、各地域で好まれるお酒は、東北地方は日本酒、九州は焼酎、京浜はワインであるということが見て取れます。この結果は、NPI Reportで見た売上高ランキングに現れた特徴と一致するため、「京浜といえば果実酒」というフレーズには、妥当性があると言えます。「東北地方は焼酎では?」と思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、家計調査の品目には焼酎に甲乙の区別がありません。NPI Reportの売上高を参考に、甲:乙=4:6の割合で消費されていると仮定すると、清酒、焼酎(乙類)、焼酎(甲類)の順に消費されていることになるので、「東北地方は日本酒」と言って差し障りはなさそうです。

図1 世帯あたり支出金額と食品に占める割合*

家計調査からわかることは他にもあります。図1を見ると、京浜・東北・九州の3地域のうち、家計の食品消費に占める酒類の消費支出の割合を見ると、東北地域が最も高く、九州・京浜と続いていくことが分かります。酒類消費支出の割合の高さが、そのままお酒に対するこだわりの強さに表れていると考えれば、東北地域は他の2地域に比べて、頭一つ抜きんでた「こだわり」を持っていると考えることができます。

POSデータと公的統計データを組み合わせることで、世間が抱いているイメージや、経験的に知っている印象を数的な事実で補完することで説得力が増すばかりでなく、新たな発見に結びつけることができます。今回は、東北地方の意外な焼酎人気と「京浜といえば果実酒」という耳慣れないフレーズが、その実当てはまっていることが分かりました。

*統計局『家計調査 2016年5月』(http://www.stat.go.jp/data/kakei/) 2人以上世帯

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