コラム

シリーズ「POSデータでみる地域性」 第6回 ソース(京浜・近畿)

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シリーズ「POSデータで見る地域性」第6回では、日本独自の調味料といわれるソースを取り上げ、地域特性を読み解いていきます。

以下の表は、京浜と近畿の2016年1月におけるソースの売上金額、上位10商品です。

1ブルドック 中濃ソース 500ml
2オタフク お好みソース フクボトル 500g
3ブルドック 中濃ソース 300ml
4ブルドック とんかつソース 500ml
5オタフク お好みソース スマボ 300g
6ブルドック ウスターソース 300ml
7ブルドック とんかつソース 300ml
8キッコーマン デリシャスソース 中濃 500ml
9ブルドック ウスターソース 500ml
10ブルドック 中濃ソース 170ml
1オタフク お好みソース フクボトル 500g
2オタフク 焼そばソース FB 500g
3カゴメ ソースとんかつ醸熟 500ml
4カゴメ ソースウスター醸熟 500m
5イカリ とんかつソース 500ml
6イカリ お好み焼ソース おこのみ家 500g
7イカリ ウスターソース 500ml
8オタフク コクと旨みのお好みソース 500g
9オタフク だしと醤油のたこ焼ソース 300g
10オタフク お好みソース ハンディボトル 1150g

日本の東西の違いを語る際に非常によく取り上げられるソースですが、売上を見てもそれは明らかです。まず目立つのは、登場するメーカーの違いです。京浜ではブルドックソース社の製品が上位10商品のうち7つを占める一方、近畿では、オタフク、イカリソース、カゴメといった、中京以西に本拠を置くソースメーカーの製品が名を連ねています。

もう一点、濃度(粘度)の好みについても定評通り違いが見て取れます。京浜では「中濃」ソースのシェアが最も大きいですが、これもまた近畿のランキングからはすっぽりと抜け落ちています。代わりに近畿の上位を占めているのは、「ウスター」「とんかつ」の2種および「お好み焼き」ソースです。

この「メーカー」と「濃度」の2軸で考えてみると、一つ気になることが出てきます……「ブルドック」の「とんかつソース」「ウスターソース」 は近畿では売れているのでしょうか?

答えは否で、ブルドックのとんかつソースやウスターソースは近畿では取扱店舗自体がほぼなく、結果として金額的にCランク商品(84位、94位) となっています。この理由としては、同じ濃度でも味が地方別に調整されているという面もあるでしょうが、それ以上に、地場メーカーの商品が、その地域の食文化そのものと濃密に関連してきたという歴史的文化的要因が大きいと思われます。かつて「おれはいかりや、ソースはイカリ」というCMがありましたが、まさにこうした「カテゴリ名すなわちメーカー」という連想は、消費者の中に根付くには時間がかかりますが、一旦浸透してしまえば、その地域に競合商品の参入を許さない強力なブランドとして機能するわけです。

逆に、ブルドックの中濃ソースが近畿15位(Aランク)に残っているのは、中濃ソースがもともとの近畿の食文化圏になかったがために一種のニッチ(空隙)となっており、逆に域外からの参入が可能となっている一例と考えられます。域外への進出という点では、京浜の2位に食い込むオタフクのお好み焼きソースがもう一つの好例でしょう。そもそもお好み焼き文化を持たなかった京浜は、メーカーにとって未開の地であり、その開拓に力を尽くしたオタフクがその巨大なニッチを占有することに成功したということでしょう。

日本という島国であっても、その中身はそれぞれ異なる人々と歴史をもついくつもの地域に分かれていて、この内部的な差異に適応する方策が食品業界でもますます重要になっています。「細やかな個別対応でブランド力を醸成し地元の支持を確立する」地域密着的な手法はよく強調されますし、実際強力なものですが、その逆を行くような「地域にないものを新しく持ち込み市場を拡大する」開拓的な手法も、同様に地域の差異を逆手に取った一つの戦略といえるでしょう。

いずれにせよ、ある地域の定番となる商品というものは、その地域で実際にそれを購入する消費者の心理に絶妙に食い込むものであることは疑いありません。したがって、より効果的な製品開発・販促活動のためには、ショッパーの行動・心理を地域ごとに深く探求することが重要なのです。

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